週末の度にガレージで愛車を磨き、エンジンの鼓動に胸を躍らせる。それが長年の趣味だった。
以前は大手コンビニエンスストアの本部社員として勤務。連日の店舗回りやトラブル対応、深夜におよぶ売上データの分析に追われる日々を過ごしていた。休日は溜まった疲労からベッドで泥のように眠るだけで、大切にしていた愛車はカバーがかけられたまま、ガレージで静かに埃を被っていた。
学生の頃は暇さえあればツーリングに出かけていた。今は月に1回すらバイクを走らせないときもある。もちろん、学生と社会人では時間の使い方が違う。昔のように時間を自由に使えないのは理解しているが、どうしても心のもやもやがずっと消せなかった。
「もっと自由にバイクに乗りたい。いっそ、これを仕事にできないだろうか」
悩んだ末、会社を退職し、バイク便ライダーへの転職を決意した。最初は「好きなことを仕事にすると嫌いになるのではないか」「趣味とビジネスの境界が曖昧になるのではないか」という不安も大きかった。
しかし、その心配はすぐに吹き飛んだ。都心を駆け抜け、大切な荷物を無事に届けて感謝された時の達成感は格別だった。風を切る爽快感は毎日の糧となり、今では以前の疲弊していた暮らしが嘘のように充実した日々を送っている。大好きな愛車とともに走る道路の先には、いつも新しい風と確かな手応えが待っている。
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